相続土地国庫帰属制度って?手続きの流れや費用を解説
最終更新日時:2023年7月27日
相続で取得した不要な土地を国に返せる「相続土地国庫帰属法」が国会で成立し、2023年(令和5年)4月27日から開始されました。
相続にあまり詳しくない方にとっては、実際に自身で利用するにはハードルが高いイメージを持たれるかと思います。
そんな方のために、本ページでは相続土地国庫帰属法について、
・どんな制度なのか
・相続放棄との違い
・申請の条件(対象となる申請者・土地)
・実際の手続きの流れ
・制度の利用にかかる費用
などをわかりやすく解説します。
相続土地国庫帰属法とは
相続土地国庫帰属法とは、
相続した土地を受け取りたくない場合に、国に引き取ってもらうことができる制度のことです。
「相続したけど、使う予定はなく管理が大変だから処分したい」
「親から畑を相続したけど、自分には必要ない」など
急速な少子高齢化など社会情勢の変化に伴って、
近年増加する土地を手放したい等の社会的ニーズに応えるために設立されました。
「相続放棄」や「未登記の土地があること」で起こるデメリット
相続する土地が不要な場合に取る方法が、相続放棄です。
一方、相続をしても相続登記をせず放置するケースもみられます。
相続放棄や、未登記の土地になることで、どのようなデメリットがあるかご存知ですか?
相続人側のデメリット
・相続放棄をすると、資産価値のあるものを含むすべての相続を放棄しなければならない
・相続放棄をしても土地の管理責任義務は残ってしまう
・未登記のまま放置しても固定資産税の支払いは発生する
相続放棄をして土地を手放しても、土地の名義人は被相続人のままであり、土地の管理責任は継続します。
また相続登記をしないという方法をとっても、法律上は相続していることになるため、固定資産税の支払いから免れることはできません。
国や自治体側のデメリット
国や自治体が公的な事業のため用地買収をしようとしても、
土地の所有者がわからないと適正な買収ができない
相続放棄や土地の名義変更がなされずそのまま放置されることで、所有者不明の土地が増え続けています。
このような背景から、相続土地国庫帰属法が制定されました。
「相続土地国庫帰属法」と「相続放棄」の違い
相続土地国庫帰属法と相続放棄の違いに関するご質問をいただくことも増えましたので、相続土地国庫帰属法と相続放棄の違いをまとめました。
相続土地国庫帰属制度では、相続人が自分が希望する財産を手元に残して、不要な土地のみ国庫に帰属させるということができます。
相続土地国庫帰属制度を使うと「より好み」ができるということです。
※家庭裁判所に相続財産管理人の選任手続きを行い、管理のための費用(数十万〜百万円程度)を納めることで、管理義務がなくなります。
相続土地国庫帰属法への申請条件
相続土地国庫帰属法は、不要な土地を持っていれば誰でも使える制度ではありません。
ここでは制度への申請が可能な対象者、土地の条件についてご紹介いたします。
制度への申請対象者
はじめに申請が可能な人の条件についてですが、
ここでは「その土地をどのように取得したのか」がポイントとなります。
【申請OK】相続または遺贈により土地の所有権を取得した場合
【申請NG】売買等で土地の所有権を取得した場合
売買等で土地の所有権を取得した場合でも、申請できるケースがあります!
売買で取得した土地を複数人で共同所有している場合は、共有者の中に相続で持分を取得した人がいれば、共有者全員で申請することができます。
例)
AとBが共同で土地を購入
↓
Aが亡くなり、Aの持分をAの子どもCが相続
↓
BとCの共同名義の土地となる
この土地が不要となった場合、BとCが共同して行うときに限り、申請することが可能です。
Bにとっては売買で取得した土地ですが、Cと共同することで申請が可能になる、というわけです。
制度の対象となる土地
相続した土地であればどんな土地でも申請できるのか、と言うとそうはいきません。
相続土地国庫帰属法は、対象となる土地についての規定があります。
以下①~⑩のいずれにも該当していないことが要件ですが、
要するに「きれいな更地で、かつトラブルがない土地であること」が条件ということです。
①建物がある土地
②担保権または使用および収益を目的とする権利が設定されている土地
③通路など他人による使用が予定される土地
④土壌汚染対策法に規定する特定有害物質により汚染されている土地
⑤境界が明らかでない土地、その他の所有権の有無、帰属や範囲など権利関係に争いがある土地
⑥崖がある土地で、通常の管理をするに当たり過分の費用、労力を要する土地
⑦工作物、車両、樹木などが地上にあり、通常の管理又は処分をすることができない土地
⑧地下に除去しなければならないものがあり、通常の管理又は処分をすることができない土地
⑨隣接する土地の所有者などと争訟しなければ、通常の管理又は処分をすることができない土地
⑩以上に定める土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり、過分の費用又は労力を要する土地
相続土地国庫帰属制度の手続きの流れ
相続土地国庫帰属制度の手続きの流れは、次のとおりです。
①承認申請
以下の書類を、土地の所在地を管轄する法務局または地方法務局に提出します。
1)申請書
2)添付書類
3)審査手数料(土地一筆当たり14,000円)
申請書の具体的な様式については、法務局のWebサイトで記載例が確認できますので、参考にしてください。
②要件審査・承認
承認申請がされると、対象の土地が要件に見合っているかどうかの審査が行われます。
法務局や地方法務局の職員に、
・現地調査
・申請者やその土地の関係者から事実を聴取
・追加資料の提出を要求
などの権利が与えられます。
全ての要件を満たした場合は、法務大臣から承認通知が届きます。
却下事由に該当する場合は申請が不承認となります。
③負担金の納入
審査が通り承認されると、承認通知とともに負担金の額が通知されます。
承認通知を受けてから30日以内に納付をしないと承認が取り消されるので注意が必要です。
④国庫に帰属
承認されても、すぐに土地の所有権が国庫に帰属されるわけではなく、負担金を納付した時点で国庫に移転します。
土地の名義が国に変わりますが、登記手続きは国が行うので申請者が行う必要はありません。
相続土地国庫帰属制度の利用にかかる費用
前項「手続きの流れ」でも記載したように、相続土地国庫帰属制度を利用するためには負担金が発生します。
相続土地国庫帰属法の対象の土地にするための費用
先の「相続土地国庫帰属法の対象となる土地」のとおり、土地の要件は細かく定められています。
要件をクリアしていない場合は、対象となる土地にする必要があり、それぞれの状況に合わせて費用がかかります。
例)
・建物が建っている場合 → 建物の解体費用
・境界が曖昧な場合 → 境界を確定させるための費用
審査手数料
審査手数料の金額は、土地一筆当たり14,000円です。
申請時、申請書に審査手数料額に相当する額の収入印紙を貼り付け、納付します。
手数料の納付後は、申請を取り下げた場合や、審査の結果却下・不承認となった場合でも、手数料は返還されません。
負担金
申請が承認されると必要になる費用です。
国に管理してもらえることになった土地は、元々の土地の所有者が土地の管理の負担を免れる程度に応じて、国に生ずる管理費用の一部を負担する必要があります。
そのため、土地所有権の国庫への帰属の承認を受けた者は、承認された土地につき、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して算定した額の負担金を納付しなければなりません。
相続土地国庫帰属の承認取消しの可能性
不正や虚偽があった場合、承認は取消しになります。
さらにそれにより国に損害を生じさせたと判断されると、承認申請者が損害賠償の責任を負う可能性もあります。
不要な土地を相続しても要件がクリアできていなければ、それを解決してから承認申請しなければなりません。
もし要件をクリアしていないとわかっていたにもかかわらず、それを申告せずに承認申請を行うと、虚偽の申請をしたとみなされてしまいます。
《注意》相続登記も義務化対象に!
簡単ではございますが、相続土地国庫帰属制度と併せて挙げられる「相続登記」についても、本ページでご紹介いたします。
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった際、相続する不動産の名義を、相続人に変更する手続きをさします。
2023年7月現在、相続登記は任意であるため、登記申請を行わなくても違法にはなりません。
しかし、先に述べたとおり相続登記をせず放置されるケースが多く、登記記録上、所有者がわからない土地が増え続けている現状があります。
そこで相続土地国庫帰属法と同時に、相続登記の義務化が決まりました。
相続登記の義務化開始、いつから?
2024年(令和6年)4月1日から義務化する法律が施行されます。
相続登記手続きの期限は?
相続の開始および、土地の所有権を取得したことを知った日から3年以内です。
手続きを行わなかったことでのペナルティは?
今後、相続登記をしなかった場合は、最高で10万円以下の過料に処するとされています。
義務化開始前でも注意すべき点は?
相続登記の義務化は、施行以前に発生した、現在放置されている土地も対象になります。
施行前に発生していた相続については、施行日である2024年(令和6年)4月1日から3年以内に所有権移転の登記(相続登記)を行わなければならなくなりました。
正当な理由がないのに申請を怠った場合は、上記のペナルティ(最高で10万円以下の過料)の対象となるので注意しましょう。
まとめ
今回は、相続土地国庫帰属法についてご紹介させていただきました。
不要な土地を国に買い取ってもらえることで、負担が軽減される反面、対象となる土地の要件が厳しく、手続きが複雑という側面もありますので注意が必要です。
この制度の利用を考えている方はもちろんのこと、
・相続した土地についてお悩みの方、事前に対策をしておきたい方
・相続登記が必要な方、手続きを済ませたか不明な方
など、
相続に関するお悩みは、ぜひ当事務所にご相談ください。
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